認知行動療法〜しなやかな考え方でうつ気分やストレスを緩和しよう |
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熱中症に注意! 連日、40度近い猛暑が続いています。今年は、酷暑とマスク着用により例年以上に熱中症対策が必要です。 屋外など周囲の人と十分な距離が確保できる場合には、マスクをはずして休憩するようにしましょう。そして、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給をするよう心がけて下さいね。 COVID-19の蔓延 国内で初めて新型コロナウイルスの感染が確認されてから半年以上が過ぎました。この地方でも再び感染が拡大・蔓延しており、8月6日より愛知県独自の緊急事態宣言が発出されるなど一層の警戒が必要です。 当院では、安心安全に受診いただけるよう、スタッフの健康管理および院内の衛生管理に努めております。来院される皆様にも引き続きマスク着用と手指衛生のご協力をお願いいたします。また、来院がご不安な方はお電話でご連絡下さい。 ところで、今回は、認知療法・認知行動療法についてお伝えします。 長引くうつ症状や対人関係の悩み、ストレスを抱えている方、あるいはストレス対策に興味のある方に読んでいただければ幸いです。 ストレスの感じ方には考え方が影響している クリニックには、最近、コロナ禍におけるストレスでうつ気分や不安を抱き受診される方が増えています。また、上司の叱責など職場のストレスや家庭内ストレスが積み重なり、体調を崩される方も多く受診されます。 同じ環境や状況でも、ストレスを感じやすい方、あまり感じない方がいます。 それは、その人の性格や考え方、習慣や今までの体験などが影響していると考えられています。 人間関係で悩んでおられる方は、その人の思考パターン(考え方の癖)や思い込みに影響を受けていることも多いものです。 そして、うつ状態では悲観的な考え方によって憂うつな気分となり、自分は全然価値がないと確信するなど自己破壊的感情に至ることもしばしばあります。 うつ状態のときによく起こる思考・行動パターンには次のようなものがあり、うつ気分との悪循環(うつ病スパイラル)を呈しやすくなります。 否定的認知(マイナス思考)の3つの特徴 落ち込んでいる時には、私たちは自分、周囲、将来の3つに悲観的な考えを持ちやすくなります。 ・自分自身に対して:自分はだめな人間だ、何の力もない ・周囲に対して:周りの人から嫌われている、迷惑がられている ・将来に対して:現状がいつまでも変わらない、この辛さは一生続く うつ状態での行動特徴 ・活動量が減る:楽しいことや達成感が得られず、元気のもとがなくなってしまう→「何もできていない」と自分を責めてしまう ・ぐずぐず主義:先延ばししたり問題を避ける→やらないといけないことがたまってしまう ・周りにうまく助けを求められない 一方、気分がいいときには、思考、気分、行動はいいサイクルで回っていることが多いものです。 認知療法・認知行動療法では、思考(認知)や行動に働きかけることによって、気分が向上することを目指します。 認知療法・認知行動療法とは 「現実の受け取り方」や「ものの見方」を認知といいますが、認知や行動に働きかけて、心のストレスを軽くしていく治療法を「認知療法・認知行動療法」といいます。 自分の考え方(認知のあり方)が、私たちの感情や行動、身体に大きく影響を及ぼすといわれています。 誰しも自分の考えは正しいと思いがちですが、特にうつ状態や不安状態では健康なときに比べ、状況を多面的に解釈することが困難になってきます。 そこで、自分の思考パターン(考え方の癖)に気づいて見直し、バランスのよい考えを取り入れていくことで気持ちが楽になったり問題解決につながったりします。 認知療法・認知行動療法では、「自動思考」と呼ばれる、様々な状況あるいは出来事があった時に瞬間的に浮かぶ考えやイメージに焦点を当てて治療が進められます。 気分は考え方に影響される あなたは職場の上司に「また失敗したのか!」と叱責された際(できごと)、どのような考えが浮かび(自動思考)、どのような気分になりますか(気分)? ・「以前も同じ失敗をした。だめな私」との考えが浮かぶ→憂うつになる ・「あの上司は私ばかりを叱る」との考えが浮かぶ→怒りや不信感がわく ・「次は失敗しないようにしよう。上司は私の将来を期待して言ってくれているのだ」との考えが浮かぶ→希望がわく このように、同じ体験をしても、それをどのようにとらえて考えるかで、そのときに感じる気分は随分違ってきます。そして、身体の反応や行動にも影響します。 「考え方によって気分も変えられる」ということを理解して、自分の思考パターンに偏りや歪みが生じていないか、下記を参考にしてみてください。 思考パターン(認知の偏り) 認知療法家のデビッド・D・バーンズは、うつ病を引き起こす認知の歪みを次のように「10の思考パターン」に分類しています。 1、全か無か思考 物事を白か黒か、○か✕か、どちらかはっきりさせないと気が済まない、非効率なまで完璧を求める極端な思考。「営業成績はいつも一番でないと意味がない」と考える 2、一般化のしすぎ 一度か二度起こった事実をみて「全てこうだ」と思い込んで一般化し、この先もずっとそうであると否定的な結論を下す。一つうまくいかないと「自分は何一つ仕事が出来ない」と考える 3、心のフィルター(選択的抽象化) 良いこともたくさん起こっているのに、物事の悪い面ばかりに注意が向き、良い面が見えなくなってしまう。良いことは無視して、世の中真っ暗だと落ち込む 4、マイナス化思考 何でもないことや良い出来事を悪い方に解釈して、マイナスに置き換えてしまう。仕事がうまくいっても「これは気まぐれだ」と考える 5、結論の飛躍 わずかな相手の言動から、勝手に相手の心を読みすぎ結論を下す、あるいは、根拠もないのに悲観的な将来の結論に飛躍する。相手から褒められたのに「口では褒めているけれど、内心はばかにしているに違いない」と決めつける 6、拡大解釈と過小評価 欠点や失敗を大げさに考え、長所や成功は小さく評価してしまう。些細なミスで失敗すると「なんて無能だ」と拡大解釈し、成功しても「こんなことはたいしたことでない」と過小評価する 7、感情的決めつけ 自分の感情をあたかも物事の真実である証拠のように考える。「何の希望もないように感じる。だから私の今の問題は全く解決不能だ」と結論づける 8、すべき思考 何事にも「こうすべきだ」「こうすべきでない」「こうしなければならぬ」と考え、厳しい基準を作り上げ、柔軟な対応ができない。「絶対に〜」と必要以上にプレッシャーを与え、自分自身を追い詰めてしまう。すべき思考を相手に向けると、自分の思い通りでないことにイライラするなどフラストレーションを感じる 9、レッテル貼り 自分や相手にレッテルを貼り、それを固定してしまう。ミスをした時に「自分は落伍者だ」とレッテルを貼り、部下がちょっとしたミスをすると「あいつは能力がない人間だ」とレッテルを貼り、決めつけてしまう 10、自己関連づけ(個人化) 良くない出来事を理由もなく自分のせいにしたり、原因を必要以上に自分に関連づけたりして自分を責める。子供の成績が悪いのを「これは私の責任だ。だめな母親だ」と思ってしまう 思い当たる項目はありましたか? 認知の偏りが全くないという方はいないと思います。生まれ持った気質や養育環境、さまざまな体験を通して、その人なりの思考プロセス(考え方)が出来上がっていきます。 自らが陥りやすい認知の偏りを把握しておくとともに、誰もがストレス下やうつ状態では、上記のような思考パターンに陥りやすいことを理解しておくことが重要です。 偏った認知を修正するためには ある状況に置かれた時にどのように考えるかによって、気分も違ってきます。どのような時に偏った考え方をするのか気づけるようになることが大切です。少し立ち止まり、事実に基づいて考え、考えが偏っていないか、違った考えがないかを見つめ直し、バランス思考を導き出していきましょう。 認知療法・認知行動療法では、思考記録表(7つのコラム)を活用して、バランスの良い考え方を身につけていきます。 辛い出来事があったとき、このようなコラムを使って、頭を整理していくことで、気分を改善し、対応策を考えることに役立ちます。 思考記録表(7つのコラム)をつけてみよう 1、状況:最近、辛い気持ちになった時の具体的な出来事 2、気分:その時、自分が感じている気分(%) 3、自動思考:その時、頭に浮かんだ考えやイメージ ↓事実に基づいて考える、認知の偏りに注目、視点を変えてみる 4、根拠:そう考える理由、自動思考を裏付ける事実 5、反証:反対の根拠、自動思考と矛盾する事実 6、適応思考(バランス思考):自動思考に代わる考え(別の考え、視野を広げた考え) 7、心の変化:「気分」をあらためて評価(%) 次のように自分に問いかけて、視点を変えてみて、より現実的でバランスのとれた考えに切り替えていきましょう。 ・他の人が同じ立場にいたら、なんて言ってあげるだろう? ・あの人だったら、どうアドバイスしてくれるだろう? ・元気な時だったら、違う見方をしないだろうか? ・以前、同じような経験があれば、どう対処しただろう? ・自分ではどうしようもないことで、自分を責めていないだろうか? ・見逃しているプラスの事実はないだろうか? このようにして視野を広げてみることで、認知の偏りが修正され、心の変化が生じ(最初に感じた気分が少し楽になり)、前向きな気持ちや行動につながります。 自分のこころの法則(スキーマ)に気づく 自動思考の根本には、思い込みや絶対的信念があるものです。人の考えや行動には、その人なりのパターンがあり、日々の考えや行動に影響を与えています。それは、過去の経験、トラウマ、人間関係、成功、失敗体験などによって作られます。うつ状態では、マイナスの「心の法則」が優勢になり、柔軟な考え方や行動を妨げます。 たとえば、「私は人から嫌われやすい」という心の法則があると、人から連絡がない状況などで「ああ、嫌われた」との自動思考がより出やすくなります。 自分の心の法則や思考パターンに気づいて、一つだけの見方でないことを知りましょう。そして客観的に考えることで、マイナスの自動思考から早く脱出でき、うつ病の再発予防にも役立ちます。 行動へのアプローチ(行動活性化) うつ状態のときは、活動性や意欲が低下し、休養が必要ですが、少し元気が出てきたら、少しずつ達成感や楽しみを感じられる行動を増やしながら行動範囲を広げていくことが重要です。前向きな行動を増やしていくこと(行動の活性化)で、さらに気分の改善も期待できます。 週間活動記録表などを活用し、どのような行動を行った時に気分が良くなるのか、自分自身の現状を観察しながら、焦らず一歩ずつ段階的に活動をアップしていきましょう。 以上、認知療法・認知行動療法について簡単に説明させていただきました。 患者様の疾患や状態によっては、当院で認知行動療法を行うことも可能ですので、診察時にご相談下さい。 また、セルフケアのためにご自身で行う場合、次のようなワークブックやサイトを利用する方法もあります。 書籍:こころが晴れるノート(大野裕) サイト:大野裕の認知行動療法活用サイト「ここトレ」こころのスキルアップ・トレーニング しなやかな考え方で気分が楽になるとともに、抱えている問題やストレスにうまく対応できるようになるといいですね。 参考文献、図書: 厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業「精神療法の実施方法と有効性に関する研究」うつ病の認知療法・認知行動療法 いやな気分よさようなら デビッド・D・バーンズ |
2020年8月14日(金) |
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