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 「あるがまま」〜コロナ禍における森田療法の活用
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梅雨が明け、本格的な夏がやってきました。
米大リーグ エンゼルス・大谷翔平選手の大活躍ぶりや振る舞いに熱視線が注がれています。
二刀流の驚異的な実力だけでなく、プレーを心から楽しみ、誰にでも笑顔で丁寧に接する姿には、心を引き寄せられます。
皆から注目を浴び結果を期待される大舞台で不安や緊張が全くない訳ではないと思いますが、積み重ねた努力とともにそれらをパワーに変える力もあるのでしょうね。この姿勢を学び、これからも応援し続けたいと思います。



コロナ禍における価値観の対立と不安

さて、東京五輪を目前に、関東を中心に第5波といわれる新型コロナウイルス感染が再拡大しています。感染防止対策や五輪について対立する意見により世論や社会が分断される事態にも追い込まれています。世界や日本がそうであるように我々身近な人間関係にも長引くコロナ禍の影響が押し寄せています。

クリニックを受診される方の中には、コロナ不安だけでなく、コロナ自粛に対する価値観の違いにストレスを感じている方が結構おられます。友人から飲食の誘いを受け、断るべきかどうかで気疲れしたり、友人への不信感にもつながったりする場合もあるようです。

特に年配の方はコロナ自粛が長引くことによる心身への影響や生活能力の低下なども問題視されており、どこまで自粛すべきか、何が正解かわからないことも多く、悩み迷うこともあるのではないでしょうか。
今では高齢者のワクチン接種が進み、以前よりは外出への抵抗が減っているものの変異株の拡大などもあり、まだまだ不安を抱えておられる方が多いのが現状です。

このご時世で不安を感じるのは当たり前ではありますが、どの年代においても不安を強く感じる方に共通しているのは、完璧を求めがちであることです。

私たちは、ついつい「こうあるべき」「こうなければならない」との概念に縛られがちです。
特にコロナ禍の今、「コロナにかかって家族に絶対にうつしてはいけない」と身動きがとれなくなってしまっている方もいます。もちろん、感染対策は必要ですし、不要不急の外出自粛が叫ばれる中、ストレスもたまり、両極端な気持ちや行動につながりやすいのも事実です。



「完璧」「完全」を目指していませんか?

ほどほどにできず精神的な不調を抱えてしまうことはよくあります。
10割やれても6割7割でいく。10割を目指して走り続けるとどこかで息切れして長続きしなかったり疲弊したりすることが多いものです。
長時間労働が続くと過労性のうつ病に陥りやすくなるように、頑張りすぎは心身によくない。でも、頑張らないといけない時もある。

もし大きな仕事を任されいつもより頑張った時には、一段落した時に意識して休みましょう。休むことを悪く思わずに、次の仕事のパフォーマンスを上げるために心身のメンテナンスをしていると前向きに考え、休息をしてください。
また「こうでなければならない」と力が入りすぎると、自律神経のバランスを崩して心身不調に陥ったり、パニック症などの不安症に発展したりします。

「とらわれ」の弊害

「とらわれ」による弊害にはどんなものがあるでしょうか。
「ほどほど」や「適当」ができなくなり、生活に支障を来たすようになると、心の病として治療が必要になります。もちろん、原因はこれだけではありませんが、「わかっているのにやめられない」「不安や恐怖で〜できない」等、とらわれの結果、下記の病態に陥ることがあります。

強迫症:強迫観念および強迫行為により時間を浪費する。施錠や火の元を頻回に確認をする確認強迫や洗浄強迫、不潔恐怖、加害恐怖など
全般性不安症(不安神経症):さまざまなことが次から次に不安になり身体症状がでる
社交不安症:人前や社交場面での著しい恐怖や不安
パニック症、広場恐怖:頻回なパニック発作と予期不安による行動回避
摂食障害、嗜癖、依存症:極端な摂食、アルコール・薬物・ネットやゲームへの依存
引きこもり:「失敗してはいけない」と身動きとれなくなる

心が疲れていると、より「とらわれ」やすくなるので要注意です。
「とらわれ」から解放させるため、また心の健康を保つために、日頃から「森田療法」の視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。



森田療法とは

森田療法とは、日本の精神科医である森田正馬によって100年ほど前に創られた、神経症に対する精神療法です。
森田正馬先生はかつての神経症(強迫症、社交不安、パニック症、広場恐怖など)の背景に神経質性格(心配性、完全主義、理想主義、負けず嫌い、過敏など)が認められ、「とらわれ」の心理的メカニズムによって症状が発展すると考えました。

たとえば偶然、動悸がするとそれに強い不安を覚え心臓部に注意を集中し、その結果ますます感覚が鋭敏になり動悸がもたらされます(注意と感覚が相互賦活的に作用して症状が強まる=精神交互作用)。そして、神経質性格の人は、不快な感情を「あってはならないもの」とコントロールしようとしすぎて、かえってそれにとらわれてしまい、神経症に発展します。

不安やその背景にある死の恐怖は、私たちが生きていく上で避けられない感情で、より良く生きようとする欲望(生の欲望)でもあり、誰もが持っている自然な感情であります。
したがって治療目標は「とらわれ(悪循環)」から解放され”こう生きたい”という本来の欲求に沿い自分らしく生きる基盤を作ることです。つまり、「不安が生じても症状にとらわれることなく行動できる」よう生活を立て直していくことです。

森田療法の基本 〜「あるがまま」の姿勢

1、感情:感情は自然なもので操作不能。感情をありのままに感じ、そのまま受け入れる(恐いものは恐いと受け入れる)
不安に対する「あるがまま」:不安を自然な感情の一つとして「そのまま」付き合う

2、行動:症状や不安をそのままにして、なすべきことをしていく
欲求に対する「あるがまま」:「こうありたい」という自ずと沸き起こる欲求も「そのまま」受け止め、それに従って行動に移す




森田療法の活用 〜不安や症状を抱えたまま、今できることをやろう

・理想の自己(かくあるべし)と現実の自己(あるがまま)とのギャップがあることが多い。頭でっかちになっていないか?
・きちんとしていたい「欲求」ときちんとできない「不安」を客観視し、不安を取り除こうとしなくていい
・「あるがまま」の自分を受け入れ、不安と共存する

・症状にとらわれず、やるべきことや、したいことをして没頭する
・自分の症状ばかりに向かっている無駄なエネルギーを外部のこと(仕事、勉強、趣味など)への関心に転換、気分に左右されずに行動する

・不安は時間とともに軽減する。感情をそのまま放任すれば、時とともに自然に消失する(感情の法則)ので時間の経過を待つ(パニック発作など)
・不安と睨めっこせずに「不安なまま」何かしら手を出してみる(行動を通して注意の転換を図る)
・気分は気分としてなすべきことをする。「ドキドキしながらもやれることをやろう」(緊張しても買い物できたらOK)

・事実は変えられないが、行動は変えられる
・「日記療法」:一日にやったことや思ったことを記し、体験を振り返りながら学ぶ
「とりあえず」「小さな一歩から」やってみよう!



不安やストレスとの付き合い方

ベストセラーにもなった著書なのでご存知の方も多いと思いますが、不安やストレスとの付き合い方について森田療法にも通じるところがあるため、ここで紹介させていただきます。
心理学者のケリー・マクゴニガルは「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」で「ストレスを見直す」ことと「ストレスを力に変える」ことについて次のように述べています。

ストレスを避けるのではなく、受け入れてうまく付き合っていく
・価値観には自分が大切に思っていることが反映されている
・自分の価値観をしっかり持つようになると、ストレスを感じた経験についての考え方が変わり、対処できる自信がつく
・「生きがいのある人生」に見られるもっとも大きな特徴として、ストレスを感じた経験の多い人ほど人生に大きな意義を感じていた
・「ストレスにはよい効果がある」と思っている人は「ストレスが害になる」と思っている人に比べて、うつ状態になりにくく、人生に対する満足度が高い
・「ストレスは害になる」と考えている人はストレスに向き合おうとせず、ストレスの原因となっている人間関係や役割に対して、努力したり意識を向けたりするのをやめる
・一方、「ストレスには役に立つ点もある」と考えている人は、事実を受け止め、ストレスの原因に対処する方法をしっかり考える。そしてサポートやアドバイスを求め、ストレスの原因を克服するか、変化を起こすための対策を講じる。困難な状況をなるべくポジティブに考え、成長する機会としてとらえることで、その状況において最善を尽くす

ストレス反応を味方にする
・ストレスのかかる状況で緊張したり不安を感じても、それはやる気の表れで「私はワクワクしている」「ストレスのおかげでうまくいきそうだ」「やりがいの仕事にはストレスは付きものだ」と思って受け入れられるようになると、ストレスや不安はエネルギー源になり、自分の実力を最大限に発揮できる
・ストレスを感じると「闘争・逃走反応=脅威反応」が起き、危険から身を守ることを優先するが、これを「行動を起こす勇気が出る反応=チャレンジ反応」に変える
・「チャレンジ反応」を起こしやすくするには「自分の強み=自分の持っている力」を認識する。たとえば、挑戦に向けて準備を重ねてきたことを考えたり、過去に同じような問題を乗り越えた経験を思い出したり、自分を支えてくれる大切な人たちのことを考えたりすることで、考え方が素早く転換し、脅威がチャレンジに変わる 

ストレスを力に変える
・あらゆる不安障害は「不安と回避の悪循環」を招く可能性があります。不安の原因を避けていると、かえって恐怖感が強まり、先のことがますます不安でたまらなくなってしまうのです
・心臓がドキドキして呼吸が速くなっているのに気づいたら、それは体があなたにエネルギーを与えようとしているしるしだと思ってください。「緊張したっていいんだ、興奮しているしるしだから。心臓もスタンバイしてるんだ」と自分に言い聞かせましょう。ストレス反応のおかげでかえって力が沸いてくることを思い出しましょう

・不安、プレッシャー、過去のつらい経験はエネルギーの源(困難な経験をした人の方が、あまり破局的な考え方をしなくなり、力が沸いてくる)
・逆境のよい面を見つめる(逆境はレジリエンスを強化し、トラウマの体験は成長につながる可能性がある)

ストレスによってどんな感覚が生じても、それを無理に打ち消そうとして焦らないこと。それよりも、ストレスのせいで沸いてくるエネルギーや、強さや、やる気をうまく利用して、いま自分がやるべきことに集中しましょう。体はありったけの力や手段を利用できるよう準備して、あなたが目の前の困難にうまく対処できるように応援しています。深呼吸をしてエネルギーが体中にみなぎっているのを感じましょう



我々は、感染症の流行や災害など何が起こるかわからない不確実な世の中で生活していて、生きていく上で不安やストレスを感じることは当たり前だといえます。
何事も100%の確実性はないものの「こうあるべき」と完全完璧を目指すばかりにたとえ0.001%でも不確実の可能性があると、そのかなり確率が低い事象に注目してしまいがちです。

逆境ともいえるコロナ禍で過剰な不安にとらわれ、大切なことを見失いがちになっていませんか?
こんな時代だからこそ、森田療法における「あるがまま」の視点を日常に取り入れ、不安やストレスとうまく付き合いながら、やりたいことや今できることに力を注いでいけるといいですね。


参考資料・図書
日常臨床で森田療法を生かすコツ-変化を引き起こすための介入方法 北西憲二、中村敬、立松一徳 第111回日本精神神経学会学術総会 
森田療法における「あるがまま」とは 久保田幹子 心理学ワールド87号
スタンフォードのストレスを力に変える教科書 ケリー・マクゴニガル




2021年7月17日(土)

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